ヤギのおうちに「緑の屋根」をつくろう〜プロジェクトのはじまり篇〜

DAYZOOのヤギ獣舎に、緑の屋根が生まれます。 新しい獣舎を設計する建築家・岩瀬諒子さんが目指すのは、それぞれの動物の生態をより引き出すような環境をつくること。ヤギ獣舎の緑の屋根もその考えから生まれました。 ヤギたちにとってよりよい屋根を考えるなかで、岩瀬さんがタッグを組んだのが、「屋上緑化」の技術を長年培ってきた株式会社イケガミです。 そもそも、なぜヤギの獣舎に「緑の屋根」をつくることになったのでしょうか。 今回は、岩瀬さんと株式会社イケガミの池上さんに、プロジェクトのはじまりから、屋上緑化の技術や考え方について伺いました。

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半世紀にわたり、屋上に緑が育つ場所をつくってきたイケガミ

株式会社イケガミ(以下、イケガミ)が屋上緑化に取り組み始めた原点は、東京タワーから見渡した街の風景にありました。建物の屋上に広がる灰色の景色を見て、「ここが緑になったら、街の景色そのものが変わるのではないか」と考えたことから、屋上緑化の仕事が始まったといいます。日本橋髙島屋をはじめとする建物の緑化に携わり、1979年に株式会社イケガミを設立しました。 

そんなイケガミの屋上緑化を支えているのが、独自の「アクアソイル工法」です。保水性と排水性を両立させた無機質の植栽基盤によって、建物の上でも植物が長く育つ環境をつくります。日本橋髙島屋で施工したものは、半世紀以上経った現在まで安定して機能しているといいます。 

植物が育つ姿だけを見れば、そこに特別な技術が使われていることはわからないかもしれません。けれど、その足元には、長い時間をかけて緑が育っていくための基盤がある。そんなイケガミの技術が、今回、DAYZOOのヤギ獣舎の「緑の屋根」にも取り入れられています。

ヤギのおうちに「緑の屋根」をつくろう〜プロジェクトのはじまり篇〜

[植物が育つ環境を、目に見えないところから支えるアクアソイル工法]

ヤギがのびのび過ごせる環境を、「緑の屋根」からつくっていく

ヤギ獣舎の屋根をどうするかと考えたとき、岩瀬さんが最初に思い描いたのは「岩場」のような屋根でした。

ヤギが暮らす環境を考えれば、岩場のような素材もひとつの選択肢。けれど、屋根は地面よりも暑くなりやすく、コンクリートや人工芝などの人工物は熱を持ちやすいという課題もあります。

そこで考えたのが、人工物で岩場を再現するのではなく、「土」を使い、植物が育つ環境をつくること。

「自然の中にヤギがいる」のではなく、「都市の中に自然とヤギがいる」。そんな風景をつくることにも、この屋根の面白さがあると岩瀬さんは話します。

 

そのアイデアを実現するために、岩瀬さんが声をかけたのが、屋上緑化の技術を持つイケガミでした。

 きっかけのひとつとなったのが、イケガミが植栽基盤を手がけたアクロス福岡。ビルを山に見立てて緑化したこの場所では、長い年月をかけて植物が育ち、今ではひとつの生態系と呼べるような環境が生まれています。

岩瀬さんが注目したのも、まさにその「時間」でした。

完成したときだけでなく、その先も植物が育ち、環境そのものが変化していく。そんなアクロス福岡の姿に可能性を感じたことが、今回イケガミに相談するきっかけになったといいます。

 

岩瀬さんが建築から考えた「ヤギが登って過ごせる屋根」を、イケガミが植物の育つ環境づくりから支える。建築と緑化、それぞれの専門性を重ねながら、DAYZOOのヤギ獣舎「緑の屋根」づくりが始まりました。

ヤギのおうちに「緑の屋根」をつくろう〜プロジェクトのはじまり篇〜

[イケガミが植栽基盤を手がけたアクロス福岡の屋上緑化]

動物のための「緑の屋根」もつくってきたイケガミ

イケガミではこれまでも、動物が過ごす環境に緑化の技術を生かしてきました。

 

そのひとつが、2010年に手がけた福田牧場の牛舎です。きっかけは、夏の暑さによる牛への負担でした。既存の牛舎の屋根には大きな荷重をかけられないという条件があるなか、それまで培ってきた屋上緑化の技術を生かして屋根を緑化。イケガミにとって、動物の環境のために緑化技術を生かした最初の仕事だったといいます。

 

2020年には、板橋こども動物園にも携わりました。既存の植栽基盤が崩れてしまったことをきっかけに、その原因を調べ、復旧工事を担当。ここでも、その場所の条件に合わせて、これまで培ってきた緑化の技術を応用しています。

建物の屋上から牛舎、そして動物園へ。場所やそこで過ごす動物が変われば、緑化に求められることも変わります。それぞれの環境や課題に向き合いながら、植物が育つ場所をつくってきたイケガミ。その経験が、今回のDAYZOOのヤギ獣舎にも生かされています。

そして、緑の屋根はつくって終わりではありません。植物が根を張り、育っていくことで、その場所の環境も少しずつ変化していきます。今回のヤギ獣舎の屋根も、これからヤギたちが過ごし、植物が育つなかで、時間をかけて変化していく場所のひとつです。

ヤギのおうちに「緑の屋根」をつくろう〜プロジェクトのはじまり篇〜

[福田牧場]

ヤギのおうちに「緑の屋根」をつくろう〜プロジェクトのはじまり篇〜

[板橋こども動物園]

ヤギのおうちに「緑の屋根」をつくろう〜プロジェクトのはじまり篇〜

[板橋こども動物園]

ヤギのおうちに「緑の屋根」をつくろう〜プロジェクトのはじまり篇〜

[都市の中に、ヤギと緑が共存する風景をつくる。]

子どもたちと一緒につくる「未来の風景」

今回のプロジェクトでは、緑の屋根をつくる過程にも子どもたちが参加します。

池上さんはこれまでも、学校の屋上や校庭を舞台に、子どもたちと芝生や原っぱをつくる取り組みを行ってきました。

今回、子どもたちがサポートするのは、DAYZOOのヤギのための小さな屋上です。自分たちが関わった場所にヤギが登り、過ごす。完成したあとも、その様子や変化を見守る楽しみがあります。

自分たちで植えた芝がどう育つのか。ヤギが屋根に登ったとき、どんな草を好むのか。そこにどんな生きものがやってくるのか。完成がゴールではなく、そこから始まる観察があります。


「自分たちが加わったことを残していく。何ごともリアルに体験する機会が減っている中で、その機会をつくるのが大人の役目だと思っています」と池上さん。

 

DAYZOOの新しいヤギの屋根の上には、どんな風景が育っていくのか。

その答えは、これから子どもたちと、ヤギと、植物が一緒につくっていきます。

 

後編(ワークショップレポート)の記事はこちら

<会社プロフィール>

株式会社イケガミ

1979年創業。独自に開発した植栽基盤「アクアソイル工法」を軸に、屋上緑化や草屋根、駐車場緑化、造園など、さまざまな場所の緑化に取り組む。日本橋髙島屋の屋上庭園や、約5,800㎡におよぶアクロス福岡の屋上緑化などを手がけ、技術開発から設計・施工・管理まで一貫して行っている。2025年グッドデザイン・ロングライフデザイン賞受賞

https://aqasoil.co.jp/

https://www.g-mark.org/gallery/winners/33756?years=2025

 

岩瀬諒子(いわせりょうこ)

DAYZOOの新獣舎の設計を担当。2012年に岩瀬諒子設計事務所を設立。建築だけでなく、土木や公園などのパブリックスペースまで、幅広い設計を手がける。人や動物の過ごし方、その場所ならではの環境を読み取りながら、空間づくりに取り組んでいる。