ウォンバットにとって心地よい温熱環境とは? 京都大学大学院 小椋・伊庭研究室のみなさん教えてください!

オーストラリア・タスマニア島からやってきたSatsukiyama DAYZOOのウォンバットたち。日本の気候や環境のなかで心地よく暮らしていけるように、DAYZOOではリニューアルを機に、よりよい環境づくりを目指しています。 ウォンバットの新獣舎では、動物園で一般的に使用されるエアコンではなく、冷たい水や温かい水を送って空間温度を調整する「放射空調システム」を導入。それによってウォンバットの暮らす環境はどのように変化したのでしょうか。この研究に取り組んでいる京都大学大学院の小椋・伊庭研究室のみなさんにお話をお聞きました。 ※ウォンバットの新獣舎について、詳しくは下記リンクから https://www.satsukiyamazoo.com/learning/wombat/live/

#環境のこと

#ウォンバット

動物が暮らしやすい環境のために

人間にとって快適な気温があるように、動物にもそれぞれ適した環境があります。これまで見過ごされることの多かった動物園の獣舎の温度環境は、動物福祉の観点からも実は欠かせない要素です。

研究室では日々、「生活空間環境制御」という温度や湿度、空気といった物理的環境をコントロールして、人や動物にとって良好な環境をつくったり、建築物の耐久性を高める研究をしています。その知見をウォンバットに応用し、どんな空間が快適といえるのか考察しました。

ウォンバットにとって心地よい温熱環境とは? 京都大学大学院 小椋・伊庭研究室のみなさん教えてください!

五月山動物園のリニューアルにあたり、ウォンバットが過ごす環境は、リニューアル後の新獣舎と、引越し期間に一時的に滞在する仮設獣舎の2種類。新獣舎には「放射空調システム」が配置されることになりましたが、これは寒い日には温かいお湯、暑い日には冷たい水が循環し、温熱環境を調整するものです。

ウォンバットにとって心地よい温熱環境とは? 京都大学大学院 小椋・伊庭研究室のみなさん教えてください!

また、なるべく自然環境に近い空間をつくるため、あえて空間温度にムラをつくるようにしました。動物福祉の視点からも、選択肢があるのは大事なことだそうです。ウォンバットの好みやその時々の体調に合わせて、自ら過ごすエリアを選んでもらいたいという狙いがありました。

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一方の仮設獣舎は、新獣舎にお引越しするまでの仮住まい。放射空調システムではなく、従来型のエアコンが設置されています。夏場は天井からの放射熱で地面の温度が上がることがわかったので、天井と地面の間に遮熱シートを施工し様子を見ました。

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温度、湿度、空気など総合的に検証

複数の研究文献*1-4を参考に、ウォンバットの健康維持に最適な温度を定義しました。

まず、快適に過ごせる範囲は夏季で22〜25°C、冬季で16〜20°Cとしています。また、これより広い10〜27°Cという範囲を、生命維持に欠かせない「安全温度域」と想定しています。

*1 Johnson:Utilization of habitat by the northern hairy-nosed wombat Lasiorhinus krefftii', Journal of Zoology, vol. 225. 495-50,1991

*2 Shimmin et al:The warren architecture and environment of the Southern Hairy-nosed Wombat (Lasiorhinus latifrons)', Journal of Zoology London, vol. 258. 469-477,2002

*3 Wells:Field observations of the Hairy-nosed Wombat lasiorhinus latifrons (Owen)ʼ, Australian Wildlife Research, vol. 5. 299-303,1978

*4 MacCallum:Common Wombat (Vombatus ursinus) Husbandry Manual, Western Plains Zoo, Dubbo, 2003

ウォンバットにとって心地よい温熱環境とは? 京都大学大学院 小椋・伊庭研究室のみなさん教えてください!

新獣舎の環境評価は主に冬季に行いました。空間温湿度や表面温度(熱画像)、風速といった物理量の「実測」と、実測では測りきれない部分のデータを補完する「CFD解析(温度・気流分布のシミュレーション)」、さらに五月山動物園公式のライブカメラ映像を視聴する「行動観察」の3つの手法を使って検証しました。

たとえばフクくんがいる獣舎には、温湿度を測るためのセンサーと記録装置が一体になった機械を設置し、長期的に計測を行いました。実際に獣舎を訪れた際には、天井や壁などの表面温度を測る熱画像を撮ったり、気流や空気の出入りを調べたりしました。

ウォンバットにとって心地よい温熱環境とは? 京都大学大学院 小椋・伊庭研究室のみなさん教えてください!
ウォンバットにとって心地よい温熱環境とは? 京都大学大学院 小椋・伊庭研究室のみなさん教えてください!

また、今回は熱環境だけではなく、空気環境に関しても検討を行っていたので、中の空気と外の空気がどのくらいの時間で入れ替わるかというのも指標化しました。

一番難しかったのは、出てきた結果をどのように評価するか、ということです。ペットである猫や犬、家畜などはこれまでにも前例があったのですが、ウォンバットは世界初ということで、比較できる資料がありませんでした。そこで文献調査をもとに評価基準を決めることにしたのですが、とても苦労したのを覚えています。

放射空調システムにはポテンシャルあり

ここまで検証してきて、新獣舎の放射空調システムは、少なくとも冬季は安全な環境を維持できることや、不快な気流を抑制できることがわかりました。夏についてはまだ実測では確認できていないので、あくまで解析に基づく予測ベースなのですが、暑い環境でも安全な環境を維持できるポテンシャルがあるのではないかと考えています。

ウォンバットにとって心地よい温熱環境とは? 京都大学大学院 小椋・伊庭研究室のみなさん教えてください!

旧獣舎ではエアコンが使われていたのですが、CFD解析の結果、冬季は天井付近に暖気が溜まりやすいエアコンに対し、放射冷暖房パネルを使うと空間全体をムラなく温められることが明らかになりました。

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また、仮設獣舎に関しては、遮熱シートによって、夏の日差しの放射熱による温度上昇を一定抑えることができるということをCFD解析では確認できました。一方、冬の場合は、獣舎内にテントのようなものを設置し、暖気が動物の居住域にだけ留まるようにする施策を考えたのですが、テントの隙間が大きいとあまり効果がないことがわかり、さらなる検討が必要そうです。

ウォンバットにとって心地よい温熱環境とは? 京都大学大学院 小椋・伊庭研究室のみなさん教えてください!

今後は、飼育員さんとも相談しながら、放射空調システムに送る温水の温度を変える実験をしてみたいです。温水の温度が変わると室内環境も変わるので、そのときにウォンバットがどこで過ごすかを見ることで、もう少し省エネなかたちで空調を設置できる可能性があるのではと思っています。

また、非接触で心拍データや呼吸などを測定する研究をしている、本学大学院の阪本研究室ともコラボレーションできればいいなと思っています。環境条件を変えた時と変えていない時で、ウォンバットの呼吸などがどう変化しているのかぜひ検証してみたいです。

研究室プロフィール

小椋・伊庭研究室(京都大学大学院工学研究科 建築学専攻 生活空間環境制御学)

「くらしと文化を守り地球に優しい建築を作ろう」をテーマに、快適で省エネな建築環境を追求し、人や動物が安心して暮らせる建築と文化遺産の継続的な保存を実現する方法などを研究している。

https://be-archi-kyoto-u.jp/