五月山の自然を生かした「生息環境展示」とは?

動物が心地よく過ごす場所を目指すSatsukiyama DAYZOOでは、動物本来の行動を引き出す「生息環境展示」の考え方のもと、五月山の自然を生かした環境づくりを行っています。設計者と協働しながら、ウォンバットの居場所となる屋外の生息環境づくりを手がけた動物園デザイナーの若生謙二さんに、お話をお聞きしました。

#環境のこと

#ウォンバット

「生息環境展示」ってなに?

檻やコンクリートに囲まれた風景は、動物本来の姿を感じにくいもの。そこで生まれたのが、動物を生息環境と共に飼育・展示をするという考え方です。展示の目的は大きくふたつあります。ひとつは、自然の中で暮らす姿を見せることで、動物とその環境の関係を伝えること。もうひとつは、土や緑、水や岩といった自然の要素に囲まれた空間で、動物自身が本来の行動や習性を発揮できるようにすることです。そのためには、野生動物が実際に暮らす環境をきちんと自分の目で見ることが大切です。そのために、海外まで調査にいくことも多いです。

例えば、南アルプスを望む段丘崖に位置する飯田市立動物園の「カモシカの岩場」では、南アルプスの山々を背景に、カモシカが好んで生息する岩場を再現しています。住宅街の景観を岩場で隠すことで、大自然を背に立つカモシカの姿を見上げる人気の展示となりました。

五月山の自然を生かした「生息環境展示」とは?

また、長野市茶臼山動物園の「オランウータンの森」では、既存の樹木を活かした設計をしています。樹上生活を送るオランウータンの姿を見せるために、広葉樹や林床の腐葉土などを保全しながら森林環境をそのまま取り込み、本来の森での暮らしを伝えています。

五月山の自然を生かした「生息環境展示」とは?

五月山の借景を生かした設計

ウォンバットエリアを見渡すと、五月山の自然がいっぱいに広がっています。五月山の斜面や木立を背景に取り込むことで、動物たちの暮らしをローカルな風景に溶けこませました。園で生まれ育った動物たちはすでに“五月山育ち”。この土地の景観、四季の移ろいを借りながら、動物たちと出会うことができる、ここにしかない体験をつくっています。

五月山の自然を生かした「生息環境展示」とは?

タスマニアと池田市の植栽を組み合わせる

植栽は、ウォンバットのふるさとであるタスマニア州の植物と、植木の産地としても名高い池田市の植栽を融合させています。五月山に自生する木や日本の木を基本にしながら、タスマニアの植物を組み合わせて設計。さらに、ウォンバットがタスマニアで実際に食べる植物も取り入れることで、ウォンバットの本来の暮らしとつながる空間をつくり出しています。また、タスマニアでは、朽ちて中が空洞になった倒木の陰に隠れているウォンバットがいました。この風景を取り入れるべく、倒木を擬木で再現し、日陰を作っています。

五月山の自然を生かした「生息環境展示」とは?
若生先生が訪ねたタスマニアの様子
五月山の自然を生かした「生息環境展示」とは?
タスマニアで暮らすウォンバットの姿

植物がもたらす日陰とやわらかな境界

ウォンバットエリアには、ケヤキやアカシア、リョウブ、ヤマボウシなどの樹木を組み合わせ、ウォンバットと人の双方に木陰を生み出しています。土と植物の力で気温の上昇を抑え、真夏でも動物が快適に過ごせる環境を実現しました。さらに、岩や木をバランスよく配置することで、遊び場や隠れ場、日陰のスポットとしても機能します。

五月山の自然を生かした「生息環境展示」とは?
五月山の自然を生かした「生息環境展示」とは?

まとめ

Satsukiyama DAYZOOでは、五月山の自然環境をベースにタスマニアの植栽を取り入れながら、動物が本来の姿で生き生きと暮らせる空間を実現しています。それは、Satsukiyama DAYZOOだからこそできる、新しい生息環境展示のかたちなのです。

プロフィール

若生謙二さん

動物園デザイナー/大阪芸術大学 教授。公園のランドスケープの起源であるイギリス風景式庭園の形成過程を探るとともに、動物園デザイナーとして全国の動物園で生息環境展示の実現にとりくむ。Satsukiyama DAYZOOの生息環境展示も手がけている。

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